妻と一緒に日本中を巡る車中泊の旅を始めて3年が経ちました。最初は温泉地や景勝地を中心に回っていたのですが、昨年から登山と車中泊を組み合わせることの素晴らしさに気づき始めたんです。バックパッカー時代にネパールやペルーで山々を歩いた経験はありましたが、日本の山を車中泊で楽しむのは全く別の魅力があります。今回は、登山と車中泊の組み合わせ方について、実際の体験を交えながらお伝えしたいと思います。
車中泊と登山の相性が良い理由
登山と車中泊は、実は非常に相性の良い組み合わせなんですよね。従来は登山といえば、山小屋に泊まるか、ふもとの宿泊施設を利用するかのどちらかでした。しかし車中泊なら、その中間のような自由度が得られます。費用も抑えられますし、何より自分たちのペースで山と向き合える点が素晴らしいのです。
登山口近くに泊まれるメリット
登山口の近くに車で泊まれるというのは、想像以上に大きなメリットです。私たちが北アルプスの槍ヶ岳を目指したときのことですが、新島々駅の近くの駐車場で前夜に車中泊し、翌朝5時半には登山口に着くことができました。山小屋を利用する場合、事前予約が必須で、日程が固定されてしまいます。一方、車中泊なら天気予報を見て「明日の天気が良さそうだから登ろう」という柔軟な判断ができるんです。
また、登山口到着時点で既に体力を温存できているというのも大切です。バックパッカー時代、ふもとの町から登山口まで何時間も歩いた経験がありますが、その疲労を最小限に抑えられるのは、特に50代以降の登山では重要だと実感しています。
早朝出発で混雑を避けられる
人気の山では、朝の時間帯に登山道が混雑することが多いです。GW期間に高尾山に登ったときは、朝7時の時点で既に大勢のハイカーで埋まっていて、いやはや、驚きました。しかし車中泊なら、夜明け前の4時、5時といった超早朝に出発することができます。
私たちは富士山を登ったときも、新五合目の駐車場で前夜に泊まり、朝3時に出発しました。その時間帯は登山道がほぼ貸し切り状態で、静寂の中で富士の裾野を歩むことができました。山頂での日の出も、人混みの中ではなく、ゆっくり楽しむことができたんです。混雑を避けることで、登山本来の楽しさが格段に高まるのを感じます。
登山に適した車中泊スポット選びのポイント
登山と車中泊の組み合わせを成功させるには、泊まるスポット選びが極めて重要です。適切なスポットを選べば快適ですが、準備不足だと思わぬトラブルに見舞われます。私たちも最初は失敗を重ねました。
登山口までのアクセスを確認する
当然のことに思えるかもしれませんが、登山口までのアクセスを正確に把握することは想像以上に大切です。特に山奥の登山口の場合、夜間に到着すると道を見失うリスクがあります。事前にGoogleマップで登山口の位置を確認し、可能なら昼間に一度下見をしておくことをお勧めします。
私たちが木曽駒ケ岳に登ったときの話ですが、前夜に駐車場に着いたものの、朝になって登山口への道を見つけるのに30分も費やしてしまいました。暗闇の中で懐中電灯を片手に歩き回ったのは、妻にも申し訳ないことをしてしまいました。それ以来、登山口への最終的なアクセスは、できるだけ明るい時間帯に確認するようにしています。
また、登山口の駐車場が夜間通行止めになっていないか、ゲートの有無なども事前にリサーチしておくべきです。環境庁や各地の山岳会のウェブサイトに詳細情報が載っていることが多いので、活用してください。
駐車場の設備と安全性をチェック
車中泊に適した駐車スポットの条件として、まず安全性が挙げられます。人気のない山奥の駐車場は、野生動物との遭遇リスクや、盗難のリスクもあります。できれば複数の車が停まっているような駐車場を選ぶ方が安心です。
駐車場の設備も重要です。理想的なのは、トイレが完備されていて、水が得られる環境です。南アルプスの北岳登山口にある広河原駐車場は、有料(1日500円程度)ですが、トイレが清潔に保たれており、登山者向けの施設が充実しています。こうした駐車場を選ぶことで、車中泊の快適性が大きく向上します。
一方、無料の駐車場の中には、トイレが簡易的だったり、夜間の利用が想定されていないところもあります。その場合は、ポータブルトイレを車に積んでおくことをお勧めします。私たちも、携帯トイレ(カワハラ製の「トイレONE」など、1個100円前後)を常備するようになってから、随分と気が楽になりました。
トイレ・水場の有無を事前リサーチ
登山前夜と登山後の車中泊では、トイレと水場の確保が快適さを大きく左右します。特に登山後は、汗をかいた体を少しでも清潔にしたいという気持ちが強くなります。
私たちが訪れた駐車場の中で、最も恵まれていたのは、八ヶ岳の美しの湯駐車場です。ここは温泉施設が併設されており、登山後に温泉に浸かることができます。料金は大人1人800円程度ですが、登山疲れを癒す価値は計り知れません。温泉から出た後、妻は「これ以上の贅沢はない」と言っていました。
トイレについては、駐車場に完備されていることを確認した上で、さらに登山道沿いのトイレ位置も把握しておくと良いです。山小屋のトイレは利用者が多く、登山中に長時間待たされることもあります。事前情報があれば、水分補給のタイミングを調整できます。
登山前後の車中泊で気をつけるべきこと
登山と車中泊を組み合わせる際、気をつけるべきポイントがいくつかあります。特に体のコンディショニングに関わることなので、丁寧に対応する必要があります。
疲労回復を優先した車内環境づくり
登山後の車中泊では、疲労回復が最優先です。そのため、車内の環境を整えることが非常に大切なんですよね。私たちのミニバン(トヨタ・ノア)には、以下のような工夫を施しています。
まず、断熱性を高めるために、窓にサンシェードを取り付けています。これにより、夜間の気温低下を緩和でき、寝袋の中でも快適に眠れます。次に、寝具は登山用の薄型マットレス(厚さ5cm程度のウレタンマット、3000円前後)を敷き、その上に寝袋を広げています。登山の疲労で筋肉が張っているため、硬い車の床に直接寝ると、翌朝に腰痛が出ることがあるのです。
さらに、枕も重要です。登山用の小型枕(500g程度)を用意しておくと、首への負担が軽減されます。私たちは最初、服を丸めて枕代わりにしていたのですが、首が痛くなることが多かったんです。小型枕を導入してからは、寝心地が格段に改善されました。
登山後の体のケアと就寝時間の工夫
登山後すぐに眠ろうとしても、体が興奮状態にあるため、なかなか眠れないことがあります。特に高い山に登った場合、アドレナリンが出ているのか、就寝予定時刻の2時間後まで目が冴えていることもあります。
そこで私たちが実践しているのが、登山後の軽いストレッチと、温かい飲み物の摂取です。登山口に戻った後、車に戻る前に5分間程度のストレッチを行います。特にふくらはぎ、太もも、腰周りを丁寧に伸ばすことで、筋肉の疲労が和らぎます。その後、車内でホットコーヒーやハーブティーを飲みながら、ゆっくり過ごします。
また、就寝時刻も工夫しています。登山後の夜間は、通常より1~2時間遅く寝ることを心がけています。これにより、体が自然と疲労を受け入れ、深い眠りにつきやすくなるのです。逆に、疲れているからと早く寝ようとすると、浅い眠りになり、夜中に何度も目が覚めることがあります。
天候悪化時の対応と撤退判断
登山と車中泊を組み合わせる際、最も重要な判断が「天候悪化時の撤退」です。山の天気は変わりやすく、予報が外れることも珍しくありません。
去年の秋、妻と一緒に北八ヶ岳の縞枯山に登ろうと計画していました。前夜に駐車場で車中泊し、朝4時に起床したのですが、天気予報では「午前中は晴れ」とのことでした。ところが、実際に登山を開始してみると、標高1800m付近で急速に雲が増え始め、気温も急低下していました。さらに、登山道の先には霧が立ち込めていたのです。
最初は「少し進めば晴れるだろう」と思っていたのですが、妻が「この天気の変化は危険かもしれない」と指摘してくれました。結局、山頂まであと1時間という地点で撤退を決断したんです。その判断が正解でした。その1時間後、下山している途中に本格的な雨が降り始め、視界が数メートルに制限されてしまったのです。
この経験から学んだのは、「山頂到達」よりも「無事下山」の方が重要だということです。車中泊で登山をする際は、特にこの判断を厳しく持つべきだと感じます。天気が悪くなったら、躊躇せずに撤退する勇気を持つことが大切なのです。
実際に訪れた登山と車中泊の体験談
北アルプス麓での失敗から学んだこと
昨年の7月、私たちは北アルプスの常念岳に登ろうと計画しました。登山口となる一ノ瀬園地の駐車場(無料)に前夜に到着したのですが、ここでいくつかの失敗を犯してしまいました。
まず、駐車場の位置を十分に確認していなかったため、朝になって登山口への道を見つけるのに時間がかかりました。次に、駐車場にトイレはありましたが、水場がなく、登山前に顔を洗うことができませんでした。さらに、夜間に野生動物の鳴き声が聞こえ、妻が不安になってしまったんです。
これらの失敗を踏まえて、翌月に同じ北アルプスの焼岳に登ったときは、事前準備を大幅に改善しました。駐車場を昼間に下見し、トイレと水場の位置を確認。さらに、懐中電灯を2個用意し、携帯ラジオも持参しました。その結果、登山前夜も登山後の車中泊も、非常に快適に過ごせたのです。
失敗は悔しいものですが、その経験が次の登山をより良いものにしてくれるんですよね。
夫婦で挑戦した山小屋との使い分け戦略
車中泊での登山を続ける中で、私たちは「山小屋と車中泊の使い分け」という戦略を編み出しました。
車中泊が向いているのは、標高が1500~2500m程度の比較的低い山で、登山口の駐車場が整備されている場合です。例えば、北八ヶ岳の白駒池周辺や、乗鞍岳の登山口などです。これらの山では、1日で登頂・下山できるため、車中泊で十分です。
一方、槍ヶ岳や穂高岳といった標高3000m以上の高い山では、山小屋の利用を検討する価値があります。高地での宿泊では、酸素不足による体の不調が起こりやすいため、専門的な環境が整った山小屋の方が安心です。また、複数日の登山では、車内での睡眠では体力回復が不十分な場合もあります。
ただし、山小屋の利用には事前予約が必須で、料金も1泊2食で8000~10000円程度かかります。一方、車中泊なら駐車場代が無料か数百円で済みます。この費用対効果を考えながら、山の難度に応じて使い分けるのが、我々の戦略です。
実際のところ、妻は「低い山は車中泊で気軽に登れるから好き。高い山は山小屋で、登山仲間との交流も楽しみたい」と言っています。両方の良さを活かす柔軟性が、長く登山を楽しむコツなのだと思います。
登山の車中泊に役立つおすすめ商品・アイテム
登山疲れを癒すコンパクト寝具
登山後の快適な車中泊を実現するには、質の良い寝具が不可欠です。私たちが実際に使用して、効果を実感している商品をいくつかご紹介します。
ウレタンマットレス(厚さ5cm、サイズ約180×60cm、価格3000~5000円):車の床は非常に硬いため、登山後の疲れた体には負担が大きいです。薄型のウレタンマットレスを敷くだけで、寝心地が劇的に改善されます。私たちが使用しているのは、Amazonで購入した「アイリスオーヤマ」製のもので、折りたたむとコンパクトになり、車内の収納スペースも圧迫しません。
登山用寝袋(温度対応-5℃程度、価格8000~15000円):季節に応じた適切な寝袋の選択は重要です。春秋の登山なら、-5℃対応の寝袋があれば十分です。私たちは「モンベル」の「バロウバッグ」を使用していますが、コンパクトさと保温性のバランスが優れています。
小型枕(重さ500g、価格1000~2000円):登山用の小型枕は、首への負担を大幅に軽減します。私たちが使用しているのは、「ニーモ」製の「フィロ」という枕で、空気を入れて膨らませるタイプです。使わないときは手のひらサイズに圧縮できます。
朝食準備に便利なポータブルギア
登山前の朝食は、エネルギー補給の観点から非常に重要です。しかし、車内での調理は限られた環境での作業になるため、効率的なギアが必要です。
ポータブルガスバーナー(価格1500~3000円):小型のガスバーナーがあれば、車内でお湯を沸かしたり、簡単な調理ができます。私たちが使用しているのは、「ソト」製の「レギュレーターストーブ」で、風に強く、安定性が優れています。ガス缶(250g、200円程度)も軽量で、複数個持参できます。
アルミクッカーセット(価格2000~4000円):登山用のアルミクッカーは、軽量かつコンパクトで、車中泊での調理に最適です。我々は「スノーピーク」製のものを使用しており、鍋、フライパン、食器がセットになっています。
保温ジャグ(容量1~1.5L、価格3000~5000円):朝、ガスバーナーでお湯を沸かし、保温ジャグに入れておけば、登山中もホットドリンクが楽しめます。「サーモス」の真空断熱ジャグは、12時間以上の保温性能があります。
インスタント食品・栄養補助食:登山前の朝食は、消化が良く、栄養価の高いものが理想的です。我々は、オートミール、フリーズドライの味噌汁、栄養バー、ナッツなどを常備しています。これらは軽量で、長期保存も可能です。
まとめ
車中泊と登山の組み合わせは、私たちの人生に新たな楽しみをもたらしてくれました。バックパッカー時代の冒険心と、現在の人生経験が融合する形で、日本の山々を巡ることができているのです。
登山と車中泊を成功させるには、事前準備と柔軟な判断力が不可欠です。駐車場の情報をしっかり調べ、天候の変化に敏感に対応し、無理なく楽しむ—これが我々が学んだ大切なポイントです。失敗もありましたが、その一つ一つが次の登山をより充実したものにしてくれています。
もし皆さんも「登山はしたいけど、山小屋の予約は面倒」「気軽に山に登りたい」とお考えでしたら、車中泊での登山を強くお勧めします。ミニバンさえあれば、年齢や体力に関わらず、日本の美しい山々と向き合うことができるのです。妻と一緒に、これからも日本中の山を巡る旅を続けていくつもりです。皆さんも、ぜひ車中泊で登山の新しい世界を体験してみてください。

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